カテゴリー:小説
幸福 | 富永 天照
最近、私の妻が老いている。 私が妻を一生の伴侶として二十数年、来年は銀婚式だった。今、妻は縁側から庭に咲いている椿を見ている。その顔には昔と変わらない微笑が浮かんでいるが、その二つの目は本当に椿を見ているのだろうか。 (さらに&hel…
詳細を見る某少女物語 | 本崎 遥
窓に目をやると、既に木枯らしの吹く季節になっていた。葉子が彼氏を作ると心に決めたのが年の初めである。もう十一ヵ月も経ってしまっていた。 葉子はひとつ溜め息をつき、英文が書き散らしてある黒板に目を戻した。 (さらに…)…
詳細を見る子猫のようにつぶやいて | 本崎 遥
前回までのあらすじ 平和な日々をだらだら無駄に送っていた天羽均は、ある日頭に浮かんだ『黒は白を好む』という言葉に傾倒し、親戚その他の反対を押し切って新興宗教『黒い蟻さんは白い砂糖が好きなのね』教を設立する。 (さらに…)…
詳細を見るあまがえる | 本崎 遥
僕は八時二十五分に目を覚ました。学校の授業開始時刻は九時三十分で、バイクで行けば四十分、自動車で行けば五十分かかるから、八時四十分にはとりあえず準備を終わらせなければならない。しかし、いつも家を出るのが遅れてしまい、一時限目には遅刻続きで…
詳細を見る私達の運命を決めるのは、他の誰でもなく、きっと私達自身でしょう | 織総 択
Ⅰ 亜衣子さんが白いカップをその清らかな指で持ち、口へと持っていかれた。綺麗な唇に縁を当て、紅い液体を少し口に含まれると、カップを口から離し、静かに飲み込まれる。私の視線は、液体に濡れ、店内の薄い光を反射している彼女の下唇に注がれていた…
詳細を見るさよならを言うまえに | 織総 択
おい、人殺しの子、こっち向けよ、何だよそのかおは? 文句あんのかよ? あれ? 犯罪者の子供って学校に来てよかったっけ? 顔を醜く歪ませた中学生くらいの男が僕のほうを向いてばかにするような口調で言っている。次第に同じような笑っている顔が…
詳細を見るさくら | 織総 択
桜の花が咲くころに、私は思い出すだろう。あの人の記憶を…。 あの時、私は会社の休みを利用して、病気で入院している母のところに久しぶりに見舞いに行った。私の勤務先が実家とはかなり離れていたので、そう度々見舞えはしなかったのだ。あの時…
詳細を見る夢中 | 天羽 均
ある自殺の現場で遺書と思われる手紙が発見された。死因は、手首を切断寸前まで切ってあるところから、見るからに出血多量、遺書の方にも血が付いているところを見ると、書いている途中で切ったようだ。 (さらに…)…
詳細を見る害虫 | 天羽 均
人間の死というのもは、本当に突然やって来るものだ。私は今、それを悟った。どんなに偉い人間だろうが、関係ないのだ。人はたまに、『日頃の行いが良いから』と口にするが、そんなものは。たまたま運の良かった奴らのくだらない謙遜に過ぎない。 (さらに…
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