Parade Paranoia | 本崎 遥
一夜 少年
少年は、いつまで立っているのだろうか。この愛のない廃墟の中で、ただ通り過ぎるだけの人波の中で。何を求めているのかも知らず、何処にいるのかも知らず、いつまでも立ち尽くすだけなのだろうか。
二夜 深海魚
大きな魚が泳いでいました。雲の上の、さらに遠いところ。月明かりに照らされて、鱗がきらきらと輝いていました。大きな魚の大きな目が、何を映すわけでもなく闇のようでした。それだけです。
三夜 ポケット
森の中で見つけた貝殻を、だいじにポケットに入れて、いつまでも持っていようと、ポケットに入れて、いつまでも持っていようと、家に帰ったら、もう入ってなくて、もう、遠い思い出です。
四夜 雪の子
月にはウサギがいて、餅をついている。ウサギのつく餅は、僕らが食べているのとは違っていて、雪になるんだ。餅をつくウサギと、丸めるウサギと、降らせるウサギとがいて、真っ白な雪になるんだ。
五夜 どうしても
泣きたいときには泣けないのに、泣きたくないときには零れてしまう。泣きたいときは泣けばいいと、言い聞かせるけど、どうしても、どうしても。いまさらのように思い出しても、溢れてくるから、涙は嫌いです。
六夜 カーニバル
カーニバルに迷い込んだ少年は、知らない誰かと手を結び、世界と一つに溶け合った。楽しい時は過ぎて行き、カーニバルは終わりを告げる。降ってわいたような静寂と孤独。そして、また少年は一人。
七夜 コウノトリ
キャベツは涙を見せつけた。連れて行かれる子供たちを追うこともできず、いつか再会のときを願って。非情なるコウノトリに泣きついても、子供たちは戻ってくるわけがなく、ただ遠くで、幸せを祈るばかり。
八夜 人間
偉大なるあの方は、全てのものを造りたもうた。人はそれらを利用して、滅びの道へと歩き出す。それが何を意味するか。それらが何を意味するか。人間には分かるはずもない。ただ、神のみぞ知るである。
九夜 思春期
思い描いた夢の数と、選ぶことのできる夢の数。うなずけない現実を見せつけられ、自問と煩悶を繰り返す日々。あふれだす衝動に破裂しそうな意識は、袋小路の中でなすすべもなく、くるくると回り続けるのみ。
十夜 おやすみ
おやすみ、子供たち。暖かな母の胸で、清らかな母の腕で、おやすみなさい。全てに満ちた存在から、零れおちた天使たち。今だけは安らぎのなかで、今だけはときめきのなかで、全てを感じて、おやすみなさい。