笑わない子供 | 天羽 均
ある少年の告白
僕は笑えない。
お母さんが怒るから
笑えないんだ。
どうして笑っちゃいけないのかは
解らないけど
お母さんが駄目だって言うんだから
絶対に
駄目なんだ。
僕は笑っちゃいけない。
学校ででも
おばさんの前ででも
本当に面白いことがあっても
お母さんに怒られるから
そんなの嫌だから
僕は笑わないんだ。
でも
お父さんは嫌いだから
あのとき笑いたかったけど
お母さんが
止めてって僕に言うから
笑わないでって言うから
僕はお母さんがいいって言うまで
笑わないんだ。
ある中年女達の会話
A・痩せ気味で眼鏡をかけている
この前から預かってらっしゃるあのお子さん
笑わないのね。
ニコリともしないのよ。
朝なんか
やっぱり近所だから
声かけるじゃない。
でもあの子
笑いもせずに
『おはようございます』
だって。
愛想が無いったらもう
ねえ。
どちらのお子さんですの。
B・少し肉の付いた顔が女には見えない
まあ
妹の子なんですけどね
どうして笑わないのか聞いても
『お母さんが駄目だって言ったから』
の一点張りで。
本当に何を教えられたのか
今度妹に聞いてみようと思うんですが
ちょくちょく行けるような所には
居ないものですから。
A・興味に眼を光らせている
どちらのほうに
住んでらっしゃるんですか。
お子さんを預けるくらいですから
よほどの事情が
お在りなんでしょう。
B・迷惑そうに眼を伏せる
ええ
実はですね
あの子の母親
今
服役中で
A・驚くようなふりをして
まあっ
服役中だなんて
悪いことを聞いちゃいましたねえ。
それでどんなことを
なさったんですか。
B・気まずそうに
小さいころは
いい子だったんですけど
夫を…………………
……………………………。
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ある殺人犯の戯言
夫は
ひどい人でした。
朝から晩まで
一日中
お酒を飲んでいて
何かある度に
息子にあたって……。
いつかはこうなる運命だったんです。
夫は
生きる資格さえなかったんです。
毎日が地獄のようで
私には
耐えることができなかった。
あの日だって
あの人は
帰って来るなり
『酒だ、酒だ』って
わめき散らして
無いことを知ると
私と息子に乱暴して……
限界だったんです。
もう耐えられなかったんです。
でも
私はあの人を愛していました。
だから
いっそのこと
この手でと思い。
私にとって愛は殺意だったんです。
ある少年の本音
僕は笑いたいんだ。
お母さんが駄目って言わなかったら
笑ってたんだ。
あのときのおかしさは
お母さんがいいって言ったときに
笑うんだ。
三年くらい笑い続けられるかもしれない。
だから
今は我慢するんだ。
今は………………………………………………
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