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恋人 -日々- | 天羽 均

 さよなら、やさしい人
動き出した歯車が時を刻むように
もう、いかなければならない

 さよなら、あざやかな人
満ち始めた月が冷ややかな夜を彩るように
いつも、誰かを照らしていたい

止まっていた時が動き始める
鼓動にあわせて呟くたびに貴方の中で何かが変わった
乾いていたつぼみが潤みだした
脈動にあわせて踊るように朝の光の中で花開いておくれ

瞳の中で貴方は微笑む
きつく結んだ唇が、仄かに歪んで見えていた
心の中で吐息が泣いた
このひとときに、ただ、お別れの接吻けを…

 さよなら、涙しない人
風に吹かれた枯れ葉が踊り続けるように
貴方に揺られ、踊っていたかった

瞳の中で貴方はうつむく
陰りをもった頬から顎へ、光に満ちた雫が伝う
心の中で痛みが泣いた
瞬くような衝撃に、いつかしら、殺されて…

篭もっていた空気が流れ始める
思考にあわせて苛立つたびに貴方の中で奇形が生まれた
枯れていた茂みが艶めきだした
期待にあわせて弾けるように夕闇に紛れて芽吹いておくれ

 さよなら、まばゆい人
清らかな指先が奇麗すぎるほどの旋律を奏でるように
貴方だけに、尽くして逝きたかった
 
 さよなら、狂おしい人
冴えわたる夜に、終わりを告げた人
いつまでも、心、やさしいままで…

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