Japanese Literatures Site

子猫のようにつぶやいて | 本崎 遥

前回までのあらすじ
 平和な日々をだらだら無駄に送っていた天羽均は、ある日頭に浮かんだ『黒は白を好む』という言葉に傾倒し、親戚その他の反対を押し切って新興宗教『黒い蟻さんは白い砂糖が好きなのね』教を設立する。そして、そのときの全財産をつぎ込んで、『安全第一』のロゴが入ったヘルメットをかぶり、首にはタオルを巻き、シャベル片手にたばこをふかしている大きな働き蟻の像を張りぼてで製作し、祭り上げた。
 『あなたも救われてみませんか。
     今なら大特価、三千円ぽっきり!
           あとくされなし!』
 という広告を出して信者を募り大当たり、二年が過ぎたころには老若男女、人馬牛犬、生物無生物を問わず二万人を超えていた。寄付金も貯まりに貯まって、それまでの四畳半一間バストイレ付日当たり良好駅から歩いて八分築十五年共同電話から、高級住宅街庭付き一戸建5LDK地下牢隠し金庫有りお抱え運転手付ベンツ完備に移り住み、左団扇な生活を、以前よりも更にだらだらと無駄に送っていた。
 そんなある日のこと、日本新興宗教教祖の会本部より、一通の封書が送られてき、『信者争奪・教祖ボーリング大会』の開催を知るのであった。

 第四話 ジタンは初めはとても不味いなと思ったけど慣れてしまうと他のやつのほうが不味く感じるようになりました、の巻

「何ぃ! 信者争奪・教祖ボーリング大会ぃ!」
 均くんはただ何となく叫んだ。「何でいまさらボーリングなの? カラオケにしようよ。俺は大いに歌うぞ」そんなことを思いはしない。均くんは現実をありのままに受け入れる人である。素直と言えば聞こえはいいが、バカがつくほどのそれであった。
 街でマッチ売りの少女を見つけては、大泣きに泣きながらお金を渡して借用書を書き、借金の形に娘を海外に売り飛ばす。路地裏で子猫を見つけては、大事に育てて三味線の皮にする。橋の上で大きな借金に困っている人を見つけては、借用書を買い取って腎臓を一個売らせてしまい、それでも足りないときはタコ部屋にぶち込む。そんなことができない男かどうかは知らないが、素直な男であることは確かである。それは作者が保証する。
 信者争奪・教祖ボーリング大会のルールは次の通りであった。
 『各出場新興宗教団体は、五千名の特に熱心な信者を用意します。その五千名を一くくりとし、トーナメント方式で勝った方が負けた方の団体から受け取るのですが、次の対戦の時には、自ら用意した信者に加え、勝つことによって得た他新興宗教の信者も賭けなければなりません。また、対戦前に棄権することも可能ですが、その場合には、その時点での獲得信者数に自らの信者五千名を加えた数の半数を対戦相手に差し出さなければなりません。
 参加団体が百二十八にも及ぶ今大会において、優勝すれば六十三万五千人の信者を新たに得ることができるのです。ゲームのほうは、十ゲームを一つと考え、ぶっ通しで十ゲームし、その合計の高い団体を勝ちとする実にシンプルなものです。時間の節約を考えて休憩はなし、食事はとっても構いませんが、ゲームの進行に支障のないようにしてください』
 直接お金を賭けるギャンブルは駄目だが、人生を賭けるような波乱万丈な生き方が好きな均くんはすぐに大会参加を決め、教祖の会本部に速達でその旨を伝えた。ただ、今回人生を賭けるのは信者である。さすが『世の中は俺中心に回っている』と日頃から思っているだけのことはある。

 天羽家は代々プロボーラーの家系であった。マイボール・マイシューズは当たり前、十二代もの昔からその道を歩み続けて来たのである。三歳になるとプロボーラー養成ギプスを付けさせられ、決して表舞台には姿を見せることのない『虎の穴ボーリング教室』に十六歳になるまで通わせられ、プロボーリング界にデビューするのであった。
 ボーリングの起源は占いである。六本の木の棒を立て、それに清めを行った頭蓋骨を投げ付ける。倒れた木の本数や倒れ方、また、頭蓋骨のひびの入り方や割れ方などによって、来期の作物の取れ高や天気・天災などを占ったのである。目と鼻の穴に指を入れて投げたことから現在のボールの三つの穴が生まれ、ピンの数が六本から十本になったのは計算がしやすいからであると言われている。よって均くんが宗教に走ったのはまんざらでもないわけであるが、この占いは当たらないことの方が多くて人々を『うんざりさせる・退屈させる』ことから『ボーリング[boring]』と名付けられただけあって、彼が創った宗教などは、はっきり言ってうさんくさい。
 厳格なプロボーラーである父と溺愛のプロボーラーである母の下で、血反吐を吐きながら通った三年目のある日の帰り道、鬼畜のようだった両親はコロンボと名乗る謎の組織によって連れ去られた。Gメンのように横一列で歩いてきた背広にトレンチコート・サングラスの男達は、彼の両親を簀巻きにしてかつぎ上げ、そのまま走り去ったのである。
「うわー! 何これ! かっこわるーい!」
 という言葉を残して、彼の父、そして母は、消息不明となった。両親とはそれっきりであった。
 均くんはそれ以来ボーリングを断っているのであるが、既にボーリングジャンキーとなっていた彼にとって、その苦しみは三年四ヵ月と四日と九時間三十三分と三十三秒もの間続きぴたりと収まったが尋常なものではなかった。

 均くんは血が騒ぐのを感じていた。十二代もの間続いたプロボーラーの血が騒ぐのである。十三代目にあたる彼も中にもプロボーラーの熱い血潮が息づいていたのであった。彼は教団の幹部であるタケちゃんに代理を頼み、その日から大会までの一ヶ月間、プロボーラー養成ギプスをつけ、虎の穴ボーリング通うことにしたのである。
 天羽均、二十六歳の冬のことであった。

 均くんはぶくぶくと太って衰えてしまっている怠慢漬けの自分の体を元に戻すことから始めようとしたが、三日で八十六回も挫けそうになった上に、一週間が過ぎた頃には筋肉痛で動けなくなり、更に一週間が過ぎた頃には体を壊していた。しかし、そこはやはりプロボーラーの血が流れているだけあり、特訓の内容を筋トレから玉転がしに変えたところ、驚異的な回復力で元の元気を取り戻していった。しかし、玉転がしも三日目になると、以前のボーリングジャンキー状態に戻ってしまい、昼夜を問わず食事も忘れるほどに傾倒していき、一週間目には再び体を壊してしまった。大馬鹿者である。よって、残りの一週間は寝たきりであったので、天才ボーラーとしての才能が開花し始めていることを知る余地はなかった。

 そして、体が回復しないうちに、当日の朝が容赦無くやって来た。

つづく

次回予告
 天才ボーラーとして覚醒した天羽均は、朝寝坊して遅刻してしまうも、次々と耐久ボーリング大会を勝ち進んでいく。決勝に駒を進めた頃になって、鈍ちんの均くんはやっと、この大会を覆っている影に気付く。
 大会に潜む陰謀。ある老人が告げた『お前の両親は生きている』というメッセージ。明らかになる謎の組織コロンボ。そして、均くん誕生の秘密。均くんの運命はいかに!
 次回、堂々最終回。お見逃しなく。
 はははっ、全部嘘。絶対続かないから安心しなさい。思いつきで作った今回限りの企画だから、前回もないのね。そういえばタイトルが嫌だよね。『子猫のように~』だぞ、この俺が。内容と全然関係ないし。
 一応笑ってもらおうと思って書いたけど面白くなかったらごめんなさい。お遊びだから許して。と言っても、どうせ今回だけだから関係ないか。俺ボーリングの起源なんて知らないし、新興宗教なんて興味無いし。大体ボーリングのスペルは[bowling]だから。あっ、騙された人がいたらごめんなさい。あははは、まあ、そんなときもあるよ。そうやって大人になっていくもんだって、人間は。あはあは。
 では、ここらで。

関連記事

コメントは利用できません。